中国を統一した始皇帝は、
その威光を全土に知らしめるため盛んに行幸した。
豪華な長い行列の中心で、
ひときわ煌びやかな独裁者を目にした二人の若き英雄は、それぞれこう反応した。
「俺がとって代わってやる」
「俺もあんなふうになりたいものだ」
前者が項羽、後者が劉邦である。
この両者。
同じことを言ってるのだがずいぶん表現が違う。
項羽は、満々たる自信を少しも隠そうとせず、
目的に向かってがむしゃらに突っ込む、という決意宣言。
その言葉は、何も恐れていないし、単刀直入で斬れ味も鋭い。
事実、項羽は並々ならない才能にあふれており、
敵には容赦ないが一部の身内や郎党への愛情には異常に篤く、
特に軍事の面では彼の軍団は鬼神のような働きをし、
何度も奇跡を起こした。
実にカッチョイイ。
すべての面で劉邦を凌駕した。
後世の人は両人を比肩して永遠のライバルなどというが、
項羽は死の間際まで劉邦をライバルなどとは思ってなかったはず。
劉邦は「はぁ?」って感じである。
いかにも自信がない。
いや、あるのかどうかもわからないほどに遠回しである。
はっきり言って意味不明だ。
しかしそのくせに大ボラを吹くし、虚勢を張る。
しかしそれが浅はかなのですぐにばれる。
バカでアホで、口が悪く頭が悪く、臆病で、強欲で、自分のためなら息子を蹴落としたりもする。
しかも戦えば百戦九十九敗。
戦場から逃げるのだけは古今に比類無し。
劉邦には敵でさえなんとなく「勝たせてあげたい」と思わせるようなオーラがあったというが、戦ってまともに勝利できるようになったのは、張良という天才軍師に出会ってからだし、仲間がいないと何一つも出来ない。
よくいうカリスマでもない。
一体なんなんだろうこの人は?
しかし最終的には項羽は四面楚歌になって敗死し、
劉邦は漢帝国建国という人類史上に輝く大事業をやってのけた。
この違いは運では片付かない。
始皇帝を初めて見た時に吐いた言葉に集約される。
簡単に言うと、項羽はサムいのだ・・。
実力や意欲はあるのかもしれないがサムいんですよ・・。
しかし、劉邦はユニークでユーモアがある。
彼の言動はどことなくプッと吹き出しそうになるくらいの面白味がある。
子供を車から突き落としたエピソードさえなんとなくおかしみがある。
だから彼のまわりには世界史上、奇跡的なほどに優れた人材が集結した。
韓信、張良、蕭何、陳平、夏候嬰、周勃、盧綰、紀信、周苛・・。
彼らは私を捨てて劉邦に集まり、漢帝国は200年にも及ぶ安定と幸福、そして文化と文明を中国と近隣諸国にもたらした。
斬れ味鋭いナイフは目の前の人はよく斬れるだろうが、
ユーモアあふれる人間味は多くの人の心を知らないうちに素手で掴み取り、離さない。
俺もそんなふうになりたいものですよ。
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