ここは長距離トラック運転手のささやかな留まり木。
幼少の頃、親父のラジオから流れてくる「歌うヘッドライト」を布団の中で聞いたのを思い出す。「オールナイトニッポン」の中島みゆきはまだ若かった。
そして寺山修司の世界が突然襲ってくる。
「もしも心がすべてなら、いとしいお金はなにになる・・」
うーん、せつないっすなあここは・・。
いろいろな感情と記憶が浮かんでは消えていきます。
ということで、実は初めて入ったこの古き名店なのだけども、
その名を轟かせている「ホルモン定食」ではなく「肉鍋定食」をオーダーしてみた。
なんとなくそんな気にさせる雰囲気なのだ。
できればコップ酒も頼みたいところだった。
が、もちろんやめた。
このあとハローワークに求人票を出しに行くという重要なmissionも控えていたし、そもそも真昼だったし。
肉鍋定食とは秋田のB級グルメで、
小ぶりの鍋に、豆腐、ネギ、こんにゃく、白菜、卵、肉が入っていて、汁は味噌か醤油仕立てのとても簡単な代物なのだ。
秋田市の食堂に入れば、必ずラインナップされているメニューだ。
肉鍋定食の主役は肉だ。
その肉は決まって薄い豚の3枚肉。豚バラともいう。
山の手の丘の上のお屋敷に住むあの子なら、
そんな薄い肉、食べたことはもちろん聞いたこともないだろう。
けれど、僕らのようなラルフ・マッチオにとっては「ごちそう」だったのだ。
昔、母親が作ってくれるカレーライスといえば、
この肉か鯨の肉(当時は安かった)が入っていたのを思い出す。
さらに学生時代食べた「スタミナ」と名のつく定食には必ずこいつが入っていた。
もしかしたら私の血肉のほとんどは豚バラで出来上がったのかもしれない。
泣けてくるぜ。
そんなsentimentalと置き所のない生活臭を肉鍋は隠し味にしているのである。
虐げられ、迫害され続けた民族でなければ知ることのできない哀しみが、
この肉鍋定食というB級グルメには滲んでいるのだ。
だから、この「7号線食堂」には「肉鍋定食」がピッタリなのだ。
かつて、親父に連れられていった今はなき駅前の「まんぷく食堂」を思い出した。
ここで肉鍋定食を食べている人は、みんなあの時の親父と同じ顔をしている。
親父、長生きしてくれよ。
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