Tiger Uppercut!~ある秋田人の咆哮
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酔って候

2008 年 2 月 28 日 by TU

山内家は嫌いだと前に書いたが、この人だけはちょと違うかもしれない。

もともと藩主になるべき人ではなかった。
藩主である父の妾の子として生まれ、分家である南家の家督を継いでいる。
ちなみに母は郷士の娘。
半分、郷士の血、大酒呑みの土佐人の血が流れている。

幼少の頃から詩文に長け、居合の技も名人並。
酒を呑み、酒を呑み、そして大酒を呑む。
一日二升以上は酒を呑んだというから本当にものすごい。

 壮士、豈かくのごとくあらんや
 懦夫のみこの病あり
 医薬、服すれども験かず
 鬱積、もとよりわが性
 日々、ただ酒を飲む

体の中に火のように燃えるものがあるのだという。
じっとしていると悶え狂いそうになるから、
この火を消すために酒を呑むのだという。
天才的芸術家のいうセリフだ。

その城下の酒呑み男が幕末、藩主が偶然にも立て続けに亡くなり、
本家の家督を継ぐことに。
酒飲みの乱暴なヤクザの若頭がいきなり殿様になったようなものだ。
藩主としての教育も一切、受けていない。
最初から型破りの藩主だったのだ。
それが高知城下の南屋敷から高知城、そして江戸へ。

「鯨海酔候」

土佐の海にはでかい鯨が泳ぐ。
その鯨海に生まれ育った大酒呑みの殿様だからということで、
彼は自らを鯨海酔候と好んで自称した。

幕末の風雲の中に出ることになり、
それなりの存在感を世の中に与え、幕末の四賢候と呼ばれた。
しかし政治家としては古典的教養をベースとした保守家であり、
維新ということでみると、そんなにたいした仕事もしていないように思える。
今まで私は龍馬や武市などのいわゆる志士側からの視点でしか、
彼をみていなかったこともありこの人物をどうにも好きになれなかったのだが、
土佐に行き、視点を改めてみるにつけわかったことがある。

この人は偉大な詩人なのだと。
詩人としての彼に魅かれるのだ。
それほど彼の詩は人を引きつける。

安政の大獄で大老・井伊直弼の粛正にかかり謹慎の身に。
このときから隠居し、山内容堂と名乗る。

しばらく鬱積のたまる日々を過ごしていたが、
桜田門外の変の報に接し、
浴びるほどに祝い酒を呑み、突如筆をとり、そばの襖に詩を殴り書きした。

 亢龍、首を失う桜花の門、
 敗鱗は散り、飛雪とともに翻れり
  ~
 汝、地獄に到り成仏するや否や、
 万傾の淡海、犬豚に付せん

暗殺された絶対権力者である大老・井伊直弼に対して、

「おまえみたいな悪人などが地獄で成仏するかどうか見物だぜ。
          所領の近江彦根三十万石など犬か豚にでもくれてやれ」

と書いて、最後に「ざまあみやがれ!」とゲラゲラと高笑いし、
筆をそこらへんにぶん投げたという。
とても大名の書く詩とは思えない。
まるでヤクザの啖呵。
しかし罵詈雑言だとしても、なんとなく格調高いのである。

「酒有り 呑むべし 吾酔うべし」

維新後は、功労者でありながら一切の官を辞して、
新橋あたりの酒楼でひたすら豪遊しまくり、ひたすら酒を呑みまくった。
そのおかげで山内家が破産しそうになったが、

「昔から大名が倒産したためしがない。俺が先鞭を付けてやろう」

と豪語してさらに呑み続けた。

四十六歳、脳溢血で昇天。
もちろん原因は多年の飲酒。
殿様であるにせよ、この男も土佐の漢なのだ。

たっすいがは、いかんぜよ

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プロフィール
     投稿者: TU
     紹介: 秋田市在住秋田人。会社を創業、 そして経営。現在30代前半。 人生の真夏。 好きなもの=「秋田」
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